1. はじめに
四季折々の自然を感じられる日本では、造園工事は伝統的に高い技術力と美意識が求められてきました。近年は都市開発や公共工事における緑化、さらには個人住宅の庭園・エクステリア需要にいたるまで、造園工事業の活躍分野は多岐にわたります。一方で、人手不足や高齢化、後継者不足に悩む中小企業も多く、持続的な経営が難しいケースが増えています。
こうした経営課題を解決し、さらなる成長や事業承継を実現する手段として、M&A(合併・買収)が近年注目され始めています。本記事では、造園工事業界におけるM&Aの概要やメリット・リスク、具体的な手順や成功・失敗事例など、約20,000文字規模で詳しく解説してまいります。造園工事業に携わる方、他業界から参入したいと考えている方、あるいは後継者問題でお悩みのオーナー経営者の方々にとって、何らかのヒントになれば幸いです。
2. 造園工事業界の概要
2-1. 造園工事の定義と業務範囲
造園工事とは、庭園や公園、緑地、街路樹などの設計・施工・管理を行う業種を指します。具体的には、下記のような業務が含まれます。
- 庭園・公園の設計・施工
- 公共緑化工事(街路樹、遊歩道、花壇などの整備)
- 外構・エクステリア工事(フェンス、門、駐車スペースなど)
- 維持管理(剪定、除草、施肥、植栽替えなど)
造園工事は単に植物を植えるだけでなく、景観デザインや構造物の施工、土壌改良、水回り設備の施工など、多面的な要素が含まれます。
2-2. 市場規模と需要の変遷
造園工事市場の規模は、建設投資全体に比べると大きくはないものの、公共事業と民間事業の両方で需要があるため、比較的安定しています。近年は住宅の外構や庭づくりのほか、商業施設の景観演出、都市再開発に伴う緑化スペースの拡大などが市場を支えています。一方、公共工事は国や自治体の予算に左右されるため、景気や政治方針の影響を受けやすい特徴があります。
2-3. 造園工事業の種類と特徴
造園工事業者は、以下のような切り口で分類されることが多いです。
- 大手ゼネコン系列や大手造園会社:大規模公園や都市開発など、大型案件を主に手がける。
- 地域密着型の中小企業:個人住宅の庭づくりや、近隣自治体の公共工事を受注。
- 専門特化型:日本庭園の施工が得意、エクステリア重視、維持管理専門など、特定のジャンルに強み。
日本は庭園文化が深く根付いていることから、伝統的な造園技術を継承する職人集団も多く存在します。
2-4. 技術革新と環境配慮の高まり
近年は、造園工事でもICT技術の導入やドローンを活用した測量、3Dモデリングによる設計シミュレーションなどが進みつつあります。また、環境保護や気候変動対策が注目される中で、緑化や植栽技術への関心が高まっています。こうした流れに合わせ、造園工事業者にも新たな技術やノウハウが求められ、開発投資の必要性が高まっています。
3. 造園工事業界の現状と課題
3-1. 人手不足・高齢化の影響
建設業全般で深刻化している人手不足・高齢化問題は、造園工事業でも顕著です。緑化や庭づくりには季節ごとの知識や繊細な作業が必要であり、若い人材の獲得が難しいという声が多く聞かれます。熟練の職人が引退すると技術の継承が難しく、企業としての競争力が低下する恐れがあります。
3-2. 公共事業の減少と競争の激化
公共事業予算は年々減少傾向にあり、各自治体の財政事情によって造園関連の発注量も増減します。また、公共事業に依存している企業が多いため、入札競争が激しく、採算が合わない価格で受注せざるを得ないケースも少なくありません。民間市場の開拓が急務となっている企業も多いです。
3-3. 後継者不在と事業承継の問題
中小企業中心の造園工事業では、後継者が見つからないまま廃業する例が増えています。造園に必要な植物や土壌、気候に関する専門知識、または独自の職人技術が失われるのは、業界にとって大きな損失となります。こうした事態を回避するために、M&Aを活用して事業承継を行う動きが出始めています。
3-4. 技術の伝承と多様化するニーズ
日本庭園や歴史的名園の修復などでは、伝統的技術の継承が重要です。一方で、現代的なデザインやエクステリア設備、高齢者や子育て世代向けのバリアフリー庭園など、新しいニーズにも対応しなければならず、造園業界には幅広いスキルセットが求められます。この多様性に対応するには、企業規模や人材構成を拡充する必要があるでしょう。
4. M&Aの基礎知識
4-1. M&Aとは何か
M&Aは「Merger and Acquisition」の略で、企業の合併や買収を指します。事業規模を拡大したり、新たな事業領域に参入したり、あるいは後継者不在を解消するなど、多様な目的で利用されます。買手が売手の株式を買い取る「株式譲渡」や、特定の事業部門のみを買収する「事業譲渡」のほか、会社同士が統合する「合併」など、さまざまな形態があります。
4-2. M&Aの手法・種類
- 株式譲渡:売手の株式を買手が取得することで経営権を取得する。
- 事業譲渡:売手の一部事業や資産のみを買手が譲り受ける。
- 合併:複数の会社が一つの法人に統合される(吸収合併・新設合併)。
- 会社分割:一つの会社を分割し、特定事業を別会社に移転する。
4-3. M&Aの一般的な流れ
- 目的設定・戦略立案:なぜM&Aを行うのか、どのような企業を求めるのかを明確にする。
- ターゲット企業の探索・アプローチ:M&A仲介会社や業界ネットワークを活用して候補先を探す。
- デューデリジェンス(DD):企業の財務、法務、労務、事業内容などを詳細に調査する。
- バリュエーション(企業価値評価)・交渉:売買価格や条件を協議し、最終契約へ。
- 契約締結・クロージング:譲渡契約を結び、株式や事業を引き渡す。
- PMI(Post Merger Integration):買収後の組織統合やシステム統合を行い、シナジーを追求する。
5. 造園工事業界とM&Aの親和性
5-1. 事業承継手段としてのM&Aの重要性
造園工事業では、オーナー経営者が職人や技術者として第一線を張り続け、後継者探しに苦慮しているケースが目立ちます。M&Aで他社の傘下に入ることで、オーナー経営者が引退しても技術と雇用が維持でき、事業が存続しやすくなるメリットがあります。
5-2. スケールメリットとコスト効率向上
機材・車両の購入や維持管理、園芸資材の仕入れなど、造園工事業にも固定的なコストがかかります。企業規模が大きくなれば、一括調達によるコストメリットが得られる可能性が高まるでしょう。また、繁忙期・閑散期の人材配置を複数拠点で相互に補完することも期待できます。
5-3. 技術力・人材力を補完するシナジー
一方の企業が伝統的な日本庭園技術に強みを持ち、もう一方が公共施設向けの大規模緑化工事に実績があるなど、それぞれの強みを掛け合わせることで技術力が多様化し、新たな市場開拓が可能になります。若手人材の採用や育成も、企業統合によって活性化が期待できます。
5-4. 地域性や商圏拡大への期待
造園工事は地理的に近いエリアでの受注が多い傾向にあります。異なる地域で活動する企業同士がM&Aを行えば、商圏拡大によるシェアアップが狙えます。また、都市部と地方部の企業が連携すれば、お互いの繁忙期を補完し、安定した売上を実現できる可能性もあります。
6. 造園工事業界でM&Aが増加する背景
6-1. 公共・民間のグリーン化ニーズ拡大
都市部を中心に、コンクリートジャングル化への反省やヒートアイランド対策としての緑化需要が高まっています。また、SDGs(持続可能な開発目標)が注目される中、企業や自治体が環境配慮を推進するために造園工事への投資を増やす動きが見られます。こうした需要を逃さないために、M&Aで施工体制を強化する企業が増えています。
6-2. アウトドアレジャー人気と庭づくりの需要増
新型コロナウイルス以降、家の庭やベランダで過ごす時間を楽しむ「おうちキャンプ」などが話題となり、個人宅の造園やエクステリア投資が増えています。こうした波に乗り遅れないよう、スピード感を持って事業拡大するためにM&Aを活用する企業もあります。
6-3. 建設業全体の再編機運と連動
建設業界では、大手ゼネコンを筆頭に再編の動きが進んでおり、関連業界にもその波が及んでいます。解体業や土木業、設備業との連携で、より包括的なサービス提供を行うためのM&Aも見られます。造園は建築や土木と密接に関連するため、業界横断的なM&Aが増える背景と連動しています。
6-4. 後継者不在の中小企業が多い構造
造園工事業の多くは職人気質が強く、オーナーの個人技術に依存していることが少なくありません。若年層には馴染みが薄く、後継者育成が難しい実態があります。こうした中小企業が、M&Aで他社に経営を委ねることで事業と従業員、技術を守ろうとする動きが進んでいるのです。
7. 造園工事業M&Aのメリット
7-1. 経営基盤の安定化と信用力向上
企業統合により、資金力や受注実績が増えれば、金融機関や元請企業、自治体などからの信用が高まります。公共工事の入札参加資格で上位ランクに進む可能性もありますし、従業員や取引先にとっても安定経営の安心感を提供できます。
7-2. 大型案件への参入と多角化の可能性
企業規模が大きくなれば、より規模の大きい公園整備工事や都市開発プロジェクトなどへの参入ハードルが下がります。また、造園設計や緑化コンサルティング、植物販売など周辺業務への多角化を図るきっかけにもなるでしょう。
7-3. 既存顧客・新規顧客の拡充
互いに持つ顧客基盤を共有することで、より幅広いサービスを提供できます。新たに取得した顧客に対して、統合後の企業の総合力をアピールすれば、追加受注やリピート契約が増える可能性があります。
7-4. 人材育成・技能承継の加速
ベテラン職人を抱える企業と若手育成を得意とする企業が統合すれば、人材育成が一気に進むことが期待できます。さらに、職人の技能を文書化・標準化する仕組みづくりも、企業規模の拡大で取り組みやすくなります。
8. 造園工事業M&Aのデメリット・リスク
8-1. 統合コストと組織文化の衝突
M&Aには顧問料や仲介手数料などの費用がかかるだけでなく、買収後の組織統合に手間とコストが発生します。また、造園工事業では現場主義の職人気質が強く、企業文化が異なる場合に衝突が生じる恐れがあります。
8-2. 過去の契約や債務リスクの引き継ぎ
買収先企業が不採算案件や未払い債務を抱えていたり、法令違反で行政処分を受けるリスクが潜んでいるケースもあります。デューデリジェンスを通じて、過去契約や財務状況、労務管理を詳細に調べる必要があります。
8-3. 価格交渉の難しさと評価の不確実性
造園工事業の売上や利益は、公共事業の入札状況や季節変動に大きく左右されます。将来の受注見込みや技術者の確保状況も含めて企業価値を評価するのは難しく、価格交渉が長期化する場合も多いです。
8-4. 社名・ブランドイメージの変化による顧客離反
造園工事は地域密着型のビジネスが多く、買収後に社名変更やブランドコンセプトの刷新を行うと、地元顧客が離れてしまうリスクがあります。既存顧客への丁寧な説明とフォローが必要です。
9. M&Aの具体的な進め方
9-1. 戦略立案と目的明確化
まずは、M&Aによって何を達成したいのかをはっきりさせます。事業承継が目的なのか、企業規模拡大による大型案件への参入なのか、技術力や人材力の補完なのか、明確なゴールを設定しましょう。
9-2. 対象企業の探索・マッチング
M&A仲介会社や業界団体のネットワーク、金融機関などを活用して、条件に合うターゲット企業を探します。オンラインのM&Aマッチングサービスを利用する手段も増えています。
9-3. デューデリジェンス(DD)のポイント
造園工事業では、以下の点を特に注意して調査します。
- 過去の公共事業の入札実績、トラブルの有無
- 組織体制(職人の在籍状況や資格)
- 工事現場の安全対策・労務管理実態
- 主要取引先やリピート顧客の安定度
- 機材・車両の保有状況とリース契約内容
9-4. 企業価値評価(バリュエーション)
DDで得た情報をもとに、財務・事業リスクを考慮した企業価値を算定します。造園特有の季節変動や入札競争力、技術者の固有スキルをどの程度加味するかが難しいポイントです。
9-5. 契約交渉・締結とクロージング
価格や譲渡の範囲、経営体制などを協議し、株式譲渡契約や事業譲渡契約を締結します。必要書類を整えたうえで、代金の支払いや株式の移転を行い、クロージングを迎えます。
9-6. PMI(Post Merger Integration)の重要性
M&A成立後は、統合計画に従って組織再編やシステム・管理方法の一本化を進めます。現場リーダーや管理部門担当者との対話を重視し、従業員に混乱が生じないよう、段階的かつ丁寧に移行を行いましょう。
10. 造園工事業におけるデューデリジェンスの注意点
10-1. 建設業許可や資格の確認
造園工事業では、建設業許可や造園施工管理技士の資格をはじめ、必要な免許が適切に取得・更新されているかを確認します。許可に不備があると事業継続に支障が出る可能性があります。
10-2. 施工管理体制・安全対策の評価
高所作業や重機使用、植栽管理など多種多様な作業があるため、安全衛生管理が確立しているかをチェックします。過去に大きな事故や行政処分があった場合は、原因と改善措置を確認しましょう。
10-3. 仕入先・下請業者との取引関係
花木や園芸資材の仕入れルート、下請業者との契約内容を精査します。長年の取引先がM&A後に離脱しないか、また口約束ベースの取引になっていないかなど、実態を把握することが重要です。
10-4. 保有機材と緑化資材の管理状況
トラックやユンボ、チェーンソーなどの重機・工具がどれくらいの稼働年数で、どのようなメンテナンスが行われているかを確認します。苗木や資材の在庫状況も評価に含める必要があります。
10-5. 従業員の技能と労務管理実態
資格保有者や熟練度の高い職人が何人在籍しているのか、労働時間管理や社会保険加入状況、残業代未払いリスクなどを確認します。人材面の健全性は造園工事企業の価値を大きく左右します。
11. 企業価値評価(バリュエーション)での考慮点
11-1. 造園工事業の収益特性と季節変動
造園工事は春・秋の植栽シーズンに需要が集中することが多く、夏や冬は工事が減る傾向にあります。複数年度の売上や利益、案件の季節分布を分析し、平均化した評価を行う必要があります。
11-2. 有形資産(機材・車両・敷地)の評価
ユンボ、トラック、芝刈り機などの保有機材や車両、資材置き場の土地・建物などを時価評価し、未償却残高やリース契約の有無を確認します。設備更新の必要性も考慮して将来コストを推定します。
11-3. 無形資産(ブランド・技術ノウハウ)の評価
地域に根付いた企業ブランド、熟練職人の技術力、独自の庭園デザインなど、定量化しにくい無形資産が企業価値を高めます。どの程度の価格をつけるかは買手・売手の交渉次第となる場合が多いです。
11-4. 大口顧客・公共案件の安定度
公共事業の入札実績や大口の民間顧客との契約状況が安定しているかを確認します。新規案件の取得に力を入れる企業か、リピート顧客中心かによって、今後の収益予測が変わります。
11-5. 将来キャッシュフロー予測とリスク調整
最終的には将来にわたるキャッシュフローの割引合計が企業価値となります。造園業特有のリスク(天候不順による工期遅延、入札競争激化など)を反映させ、シナリオ分析を行いながらバリュエーションを算定します。
12. M&A成功のためのポイント
12-1. PMI計画の策定と着実な実行
M&Aの成果は、統合後のPMI(Post Merger Integration)で大きく左右されます。両社の組織や現場作業体制、システムの統合方法を事前に詳細に計画し、クロージング後は速やかに実行しましょう。
12-2. 組織文化・現場作業慣行の統合
造園工事は現場主義であり、職人の作業スタイルが固定化されがちです。新しい経営陣の方針やルールを一方的に押し付けるのではなく、互いの良い点を取り入れながら統合を進める努力が必要です。
12-3. 従業員と取引先への丁寧な説明と説得
M&Aに伴い経営者が交代したり、社名・組織が変わると、従業員や取引先に不安が生じます。事前に十分なコミュニケーションを図り、メリットや今後の展望を共有することで離職や取引停止を防ぎましょう。
12-4. リーダーシップと戦略的判断の迅速さ
造園工事は季節や天候の影響を受けやすいため、経営環境の変化への機敏な対応が求められます。統合後のリーダーが明確なビジョンを示し、情報収集と判断を迅速に行うことが、業績向上につながります。
12-5. 新しい事業領域の開拓と付加価値創造
M&Aを機に、設計・デザイン部門や維持管理サービス、緑化コンサルティングなど新領域へ進出するチャンスがあります。造園工事と関連する付加価値サービスを一体化し、差別化を図ることができれば収益源の拡大が期待できます。
13. 失敗事例から学ぶM&Aの課題
13-1. 相場より高値で買収し、採算が合わない
業績の季節変動や不確実性を十分に織り込まずに、高値で買収してしまうケースがあります。買収後に思うように受注が伸びず、投下資本の回収が困難になり、資金繰りが悪化した例もあります。
13-2. 企業文化の衝突で熟練職人が離職
買収後、新体制に不満を抱いた熟練職人やリーダー格の社員が退社し、施工品質や顧客対応が崩れたという失敗事例があります。現場主導の業界ほど、個人の意欲やモチベーション管理が重要です。
13-3. デューデリジェンス不足で訴訟リスク露呈
買収先が過去に質の低い工事を行っていたり、労務管理上のトラブルを抱えていた場合、買収後に訴訟リスクが表面化することがあります。デューデリジェンスで潜在的リスクを洗い出すことが欠かせません。
13-4. 統合後の方向性欠如でシナジー発揮できず
M&Aによって規模は拡大したものの、具体的な統合方針や役割分担を決めないまま放置し、シナジーが出せなかった例があります。現場作業や管理部門がバラバラに動き、重複コストや連携不備が生じる可能性が高いです。
13-5. 顧客・公共事業の受注が大幅に減少
買収側の方針が地域のニーズに合わず、地元密着の強みを失ってしまった事例があります。公共事業や主要顧客が「地元色」や「家族的なつきあい」を重視するケースも多く、統合後に顧客離れを招くリスクに注意が必要です。
14. 具体的なケーススタディ:成功例と失敗例
14-1. 成功例:地域密着同士の合併で大型公園整備を受注
A県で公共造園工事を主力とするX社と、B県で個人庭園に強みを持つY社が合併。両社の技術力や人材を結集し、大型公園整備の入札で落札に成功。さらに事業エリアも拡大し、公共・民間の受注が一気に増加。PMIでは互いの現場作業ルールをすり合わせ、熟練技術者が若手を指導する体制を整えたことで、スムーズに統合を果たした事例です。
14-2. 成功例:設計事務所を買収して設計~施工まで一貫提供
設計部門が弱かったZ社が、緑化コンサルタント会社を買収することで、企画・設計・施工・維持管理までワンストップ提供を実現。都市開発事業主や大手デベロッパーからの案件が増え、高単価案件や再開発プロジェクトへの参入に成功しました。
14-3. 失敗例:経営者同士の価値観相違で協力関係が崩壊
ビジョンは一致していたが、買収後に経営方針や従業員待遇などをめぐる両社経営者の衝突が激化。最終的に買収を解消せざるを得なくなり、大きな損失と混乱を招いたケースがあります。経営方針の擦り合わせを事前に徹底することが重要だと示す例です。
14-4. 失敗例:ブランド名変更で地元顧客が離反
地域密着型企業を買収した大手造園会社が、自社ブランドを前面に押し出し、買収先の社名を完全に消してしまったことで、地元顧客が「地元の会社じゃなくなった」という感覚を持ち、離反。売上が急激に減少し、地元自治体の公共工事にも影響が及んだ失敗事例があります。
15. 今後の造園工事業M&Aの展望
15-1. グリーンインフラ需要と地方創生プロジェクト
河川改修や防災工事など、グリーンインフラ整備が推進される中で、造園工事業の関与範囲が広がっています。地方創生の観点からも、地域の公園整備や観光地の景観向上など、造園の果たす役割は大きく、M&Aで体制を強化する動きが増える可能性があります。
15-2. DX(デジタルトランスフォーメーション)への対応
ITやAIを活用した設計・施工管理、ドローンなどを使った現場調査など、建設DXの波は造園業界にも到来しています。自社での開発・投資が難しい場合、DXに強みを持つ企業を買収・統合することで、先進技術を取り込む手段が考えられます。
15-3. アウトドア・リゾート開発と造園の融合
キャンプ場やグランピング施設などのアウトドア観光が注目される中、景観設計や植栽管理が求められる場面が増えています。リゾート開発会社や観光企業と連携したM&Aにより、新たな収益モデルを生み出す可能性があります。
15-4. SDGsや環境配慮への取り組みとビジネスチャンス
CO2吸収や生物多様性保全など、造園工事が担う環境負荷軽減の意義が高まっています。SDGsの達成に寄与する企業として大手企業や自治体との連携を強化し、M&Aを通じた資本力強化で社会的要請にこたえる動きが見込まれます。
16. まとめ
造園工事業は、日本の美しい自然や庭園文化を守り、都市や地域の景観を豊かにする重要な役割を担っています。しかし、人手不足や後継者問題、公共事業減少や技術革新への対応など、多くの課題も同時に存在します。こうした困難を乗り越え、業界としてさらなる発展を遂げるための有力な手段がM&Aです。
M&Aを通じて企業規模を拡大することで、技術や人材を補完し、地域や業種を超えた商圏拡大を実現できます。また、買手にとっては事業ポートフォリオを多角化し、緑化・環境分野の需要を取り込むチャンスです。一方で、企業文化の違いによる人材流出や、デューデリジェンス不足による潜在リスクの顕在化など、慎重な対応が求められるリスクも伴います。
M&Aを検討する際は、まず自社の目的や強み・弱みを明確にし、対象企業との相性やシナジーを深く考察することが大切です。さらに、PMIの計画を入念に立て、現場作業に従事する従業員のモチベーションや取引先との関係を大切にしながら統合を進めることで、初めてM&Aの効果が最大化されます。
造園工事業界は、今後もグリーンインフラ整備やSDGs関連需要、アウトドア観光の盛り上がりなど、追い風となる要素が数多くあります。その波に乗り遅れず、企業としての経営基盤を強化し、新しい価値を創造していく上でも、M&Aは有効な戦略の一つです。自社の未来を切り拓く一助として、本記事で取り上げた事例やポイントをぜひお役立てください。