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建設会社の会社売却で社会保険・労務DDはどう進める?譲渡企業が押さえたい未加入是正・一人親方整理・引継ぎ実務

2026 6/16
コラム
2026年6月16日

建設会社の会社売却を検討し始めたとき、譲渡企業が後回しにしやすい論点の一つが、社会保険と労務コンプライアンスの整理です。建設業のM&Aでは、決算書や受注残だけではなく、現場を支える人員体制、雇用区分、法定福利費の処理、時間外労働の運用、協力会社との役割分担まで含めて見られます。買い手企業が知りたいのは、単純に「未加入か、加入済みか」ではありません。どこに是正余地があり、是正の優先順位をどう考え、譲渡後に現場運営を止めずに引き継げる状態なのか、その全体像です。

特に建設業は、常用社員、現場代理人、主任技術者、技能者、事務員、外注先、一人親方、短期応援など、人の関わり方が多層的です。そのため、他業種では表面化しにくい労務論点が、会社売却のデューデリジェンスでは一気に見えやすくなります。給与台帳と勤怠が合っているか、社会保険の加入対象者に漏れがないか、外注として扱っている人の実態は請負なのか、それとも雇用に近いのか、法定福利費を見積・請求の中で適切に確保できているか。こうした点は、買い手企業が譲渡後の偶発債務や現場混乱を見積もるうえで避けて通れません。

一方で、ここを必要以上に恐れる必要もありません。建設会社のM&Aでは、労務面に改善余地がある会社でも、現状を正しく見える化し、是正計画を示し、譲渡後の引継ぎ設計まで整理できれば、買い手企業との対話は前に進みます。むしろ問題なのは、曖昧なまま説明しようとして整合が取れなくなることです。譲渡企業がやるべきなのは、完璧に見せることではなく、現状把握、優先順位付け、改善着手、説明可能化の四つを揃えることです。

工事会社M&A総合センターでは、譲渡企業様は着手金・中間金・成功報酬0円の方針で、建設業特有の実務論点を整理しながらご相談を進めています。会社売却を急ぐほど、労務論点は感覚ではなく資料で説明できる状態にしておくことが重要です。本記事では、建設会社の会社売却で社会保険・労務DDがなぜ重視されるのか、譲渡企業が先に押さえたい未加入是正、一人親方整理、法定福利費、引継ぎ実務の考え方を、一般的な情報としてまとめます。全体像の把握にあわせて、建設会社の譲渡をご検討中の方向けページ、M&Aの進め方、企業価値診断、譲渡企業様向け無料相談フォームも参考にしてください。

目次

なぜ建設会社の会社売却で社会保険・労務DDが重く見られるのか

買い手企業が建設会社を評価するとき、見ているのは過去の数字だけではありません。譲渡後に受注が継続するか、技術者配置が維持できるか、現場で安全と品質を保てるか、採用と定着が崩れないかまで含めて判断します。その中心にあるのが、人の管理実態です。社会保険や労務管理に緩みがある会社は、譲渡後に修正コストが発生するだけでなく、現場責任者や技能者の不信感につながり、離職リスクや協力会社離反リスクを高めるおそれがあります。

また、建設業では元請や発注者、公共工事、協力会社ネットワークとの関係の中で、法令順守の見られ方が強く働きます。たとえば、社会保険加入や法定福利費の確保に関する姿勢は、元請からの評価や現場入場管理にも影響し得ます。譲渡企業がその点を曖昧にしたまま会社売却を進めると、買い手企業は「譲渡後に取引条件が変わるのではないか」「現場ごとの運用差が大きいのではないか」と警戒します。警戒が強まれば、株価や譲渡価格の調整だけでなく、表明保証、補償条項、クロージング前是正条件が重くなる可能性があります。

逆に言えば、社会保険・労務DDは、単に減点を避けるための確認ではなく、譲渡企業が信頼を獲得する機会でもあります。未整備の点があっても、論点整理表、加入確認表、雇用区分一覧、外注実態メモ、是正スケジュールを出せる会社は、買い手企業から「現場を理解している会社」「譲渡後の統合も進めやすい会社」と見られやすくなります。これは、元請・発注者との継続取引の引継ぎや、建設業許可と経審の承継実務を説明する場面でも同じです。人と制度の整理ができている会社ほど、事業の継続性を買い手に伝えやすくなります。

譲渡企業が最初に把握したい労務論点の全体像

会社売却前に把握したい労務論点は多いですが、最初から細部に入りすぎると前に進みません。まずは、経営者が全体を見渡すために、論点を五つに分けて整理するのが有効です。第一に、社会保険と労働保険の加入状況。第二に、勤怠・残業・賃金支払いの整合性。第三に、就業規則や雇用契約書などの基礎書面。第四に、一人親方・外注・応援要員の実態。第五に、安全衛生と教育の運用です。この五つを一枚の整理表に落とすだけでも、どこが先行是正の対象か見えやすくなります。

ここで重要なのは、論点ごとに「完全か未整備か」を二択で見ないことです。たとえば、社会保険加入は全員問題なしでも、勤怠集計と残業申請フローが曖昧なら、買い手企業は別のリスクを感じます。逆に、一部で是正途上の論点があっても、対象範囲、原因、対応期限、責任者が明確なら、評価は大きく変わります。建設業のM&Aで大切なのは、論点の有無より、論点の管理水準です。

そのため譲渡企業には、簿外の不安を減らすために「資料化」をおすすめします。常用社員一覧、加入保険一覧、資格一覧、現場責任者一覧、外注先一覧、一人親方一覧、雇用契約書の有無、就業規則の最終改定日、36協定の締結状況、健康診断実施状況、安全教育記録などを一覧化します。買い手企業は一覧表を見てから個別論点に入るため、最初の資料の見え方がその後のDD効率を左右します。会社売却前の資料チェックリストとあわせて準備を始めると、労務以外の論点との重複も減らせます。

社会保険の加入状況で譲渡企業が先に確認したいポイント

建設会社の会社売却でまず確認したいのは、健康保険・厚生年金保険・雇用保険の加入対象者と実加入者が一致しているかです。ここでありがちなのは、現場都合で長く働いている人を「応援」「外注」「一人親方」と呼んでいるものの、実態としては指揮命令の下で常態的に働いているケースです。名称ではなく実態で見直さないと、譲渡後に買い手企業が分類を修正する必要が生じます。修正そのものよりも、過去の運用経緯の説明が難しくなることが問題です。

また、社会保険の加入状況は、未加入の有無だけでなく、加入手続の時期、資格取得・喪失の運用、扶養確認、賞与支給時の処理、月額変更の考え方など、運用精度も見られます。会社売却を意識した時点で、直近数年の入退社者について加入・喪失処理に大きな漏れがないか、給与台帳・賃金台帳・労働者名簿の整合が取れているかを点検しておくと、後の質疑がかなり楽になります。

建設業では、法定福利費を適切に確保する姿勢もあわせて問われます。見積書や請求の段階で法定福利費の考え方が曖昧だと、単に社内管理の問題にとどまらず、価格設定の妥当性や継続的な採算管理にも疑問が及びます。買い手企業は「この会社は譲渡後に人件費を適正化した瞬間に利益が落ちるのではないか」を確認したいのです。したがって譲渡企業は、加入状況だけでなく、利益構造の中で福利費がどう織り込まれているかも説明できるようにしておく必要があります。

一人親方・外注先の整理は会社売却で特に誤解が起きやすい

建設業のM&Aで買い手企業が慎重になる論点の一つが、一人親方や外注先の位置付けです。譲渡企業としては「昔からこういう運用で回ってきた」という感覚があっても、買い手企業は譲渡後にそのまま引き継げるかを冷静に見ます。外注費として処理している人が、実態として勤務時間、作業場所、指揮命令、道具・資材の負担関係などから雇用に近いと見られるなら、譲渡後に整理が必要になる可能性があります。

ここで大切なのは、一人親方や協力業者を一律にリスク扱いしないことです。本当に請負として独立性があり、複数元請との取引があり、自己の裁量で人や道具を手配し、契約上も実態上も独立しているなら、それは健全な外部戦力です。問題は、名目だけ外注で、実態は社員に近いケースを放置している場合です。譲渡企業がやるべきなのは、外注先ごとに、契約形態、作業実態、支払単価の決め方、現場での指示関係、代替要員の可否などを整理することです。

買い手企業は、一人親方や外注に依存していること自体よりも、「その依存が見えていないこと」を嫌います。依存度が高いなら高いで、誰がキーマンで、代替余地がどれくらいあり、譲渡後の契約継続可能性がどの程度あるかを説明できれば、統合計画に反映できます。逆に、その整理がないと、譲渡後に現場ごと離脱される懸念が生じます。元請・発注者との継続取引と同じで、人の継続性は受注継続性に直結するため、ここは早めに見える化したい領域です。

残業、勤怠、給与台帳の整合性は小さな違和感でもDDで広がる

建設会社の経営者が軽く見がちなのが、勤怠と給与支払いの整合性です。現場優先で運用してきた会社ほど、出勤簿、タイムカード、日報、残業申請、現場別の手当、休日出勤の扱いに差が出やすくなります。普段は回っているように見えても、DDでサンプル確認が始まると、「この月だけ残業の計算根拠が違う」「休日手当の扱いが人によって違う」「現場日報と勤怠時間が合わない」といった小さなズレが積み上がります。買い手企業は、そのズレ一つひとつを問題視するというより、内部統制の弱さや未払残業リスクの兆候として見ます。

そのため、譲渡企業は会社売却前に、まず直近数か月から一年分程度の範囲で、勤怠記録と給与計算の照合を実施するとよいでしょう。全件を完璧にやる必要はなくても、管理職、現場責任者、技能者、事務職など属性ごとにサンプル確認を行い、差異の傾向を把握することは有効です。差異があれば、原因を「現場手当のルール未統一」「移動時間の扱い未整理」「紙日報と給与ソフトの連携不足」など具体的に言語化します。買い手企業は、差異がゼロかどうかより、原因と改善策が説明できるかを見ています。

加えて、固定残業代の有無、管理監督者の範囲、出張・宿泊を伴う現場の時間管理、早出や移動の扱いなど、建設業ならではの論点も整理しておくべきです。ここが曖昧だと、譲渡後に制度改定が必要になり、社員説明や賃金テーブル修正まで発生する可能性があります。譲渡企業としては、「将来見直しはあり得るが、現時点の運用はこうで、是正対象はここ」と区切って示すほうが、無理に問題を小さく見せるより信頼につながります。

就業規則、雇用契約書、36協定などの書面整備は説明責任の基礎になる

買い手企業が安心しやすい譲渡企業は、制度の中身そのもの以上に、書面の所在と最新版管理ができています。就業規則、賃金規程、退職金規程、雇用契約書、労働条件通知書、36協定、年次有給休暇管理簿、健康診断記録、安全衛生委員会の議事録など、必要書類の有無と保管場所を一覧化しておくことは、DDの初動で大きな差になります。書類の中身に改善余地があっても、所在が明確なら検討が前に進みます。逆に、書類がどこにあるか分からない状態だと、買い手企業は制度運用全体に不安を感じます。

建設会社では、本社と現場で管理主体が分かれやすいため、書面整備の責任者が曖昧になりがちです。経理が給与、総務が契約書、現場が安全書類、社長が個別合意を持っている、といった分散管理が起きやすく、会社売却の場面ではそれが情報探索の遅れになります。譲渡企業は、どの書類を誰が持ち、最新版はどれで、改定履歴はどうなっているかを、まず自社で整理してください。これは買い手企業への見せ方以前に、経営の棚卸しとして意味があります。

また、退職金や慶弔規程、資格手当、現場手当など、口頭運用が残っている項目がある場合は、現状ルールを文章化するだけでも効果があります。全てを制度改定する必要はありませんが、「実際の運用」と「書いてあるルール」の差が大きい項目は、買い手企業から必ず質問されます。先に整理メモを作成しておけば、クロージング前に必要な是正と、譲渡後に引き継ぐ運用を切り分けて話せます。

安全衛生と教育記録は労務DDと切り離さずに見るべき

社会保険や賃金の論点だけを整えても、建設業の会社売却では十分ではありません。現場事故、ヒヤリハット、安全教育、保護具の管理、健康診断、資格更新、特殊作業に関する教育など、安全衛生の運用も労務DDと一体で見られます。なぜなら、安全衛生の弱さは、単なる法令論点にとどまらず、受注継続、保険料、レピュテーション、離職率に影響するからです。特に、現場を支える中心人材が限られている会社ほど、一件の事故や労務トラブルが経営に与える影響が大きくなります。

譲渡企業としては、過去の事故や是正勧告があれば隠さず整理し、その後の改善を示すことが重要です。事故歴があること自体より、再発防止が仕組み化されているかが見られます。安全大会の実施、KY活動の記録、資格更新の管理、現場ルールの標準化、教育の実施頻度など、運用の形が見える会社は、買い手企業に統合後の安心感を与えます。これは、安全衛生・労災リスクをどう承継するかという論点とも直結します。

また、2025年4月施行の一人親方等に対する安全衛生措置の拡充など、建設現場では雇用関係の有無にかかわらず安全配慮が求められる流れが強まっています。譲渡企業は、常用社員だけでなく、現場で作業する外部人材を含めた安全管理の実態も確認し、誰にどの教育をどのように行っているかを説明できるようにしておくと、買い手企業との対話が具体化しやすくなります。

譲渡企業が会社売却前に進めたい90日アクションプラン

社会保険・労務DDは、短期間で全てを直すより、90日程度で「把握」「優先順位付け」「是正着手」「説明資料化」を進めるのが現実的です。まず最初の30日では、人員一覧と雇用区分の整理、加入状況の確認、就業規則等の所在確認、勤怠と給与のサンプル照合に着手します。ここで重要なのは、細部に入りすぎず、論点の地図を作ることです。経営者しか分からない属人的な運用がある場合は、この段階で必ず書き出します。

次の30日では、優先順位の高い是正に着手します。たとえば、加入対象者の整理、外注実態の見直し、契約書ひな形の統一、36協定や労働条件通知書の不足補完、手当ルールの言語化などです。全部を完了させる必要はありませんが、着手済みであること、担当者が明確であること、完了予定が置かれていることが大切です。この段階で、買い手企業に見せる前提の一覧表やQ&Aメモも整え始めます。

最後の30日では、想定質問への回答準備を進めます。「なぜ未加入が起きたのか」「現在はどこまで是正済みか」「一人親方の定義をどう整理しているか」「法定福利費は見積に織り込めているか」「譲渡後に制度改定が必要な項目は何か」といった問いに、感覚ではなく資料ベースで答えられる状態を目指します。ここまで来ると、会社売却の初期打診やノンネーム説明でも、譲渡企業としての準備水準を伝えやすくなります。

買い手企業が見ているのは完璧さよりも改善可能性

譲渡企業の中には、「少しでも未整備があるなら会社売却はまだ早いのではないか」と考える方もいます。しかし実務では、労務面が完全無欠な建設会社ばかりではありません。むしろ重要なのは、どの論点が軽微で、どの論点が価格や条件に影響し得るかを切り分け、経営者が自社の実態を説明できることです。買い手企業は、現実的な改善可能性を見ています。現場を理解していない抽象論より、実情に即した改善計画のほうが評価されます。

たとえば、過去の運用にばらつきがあっても、今後の標準ルールが定義され、キーマンがその必要性を理解しているなら、統合後のPMIで吸収できると判断されることがあります。逆に、問題が軽微でも、経営者が「たぶん大丈夫です」としか答えられないと、買い手企業は想定外リスクを大きめに見積もります。だからこそ、譲渡企業は問題の有無以上に、問題の言語化と再発防止の設計に力を使うべきです。

この視点は、譲渡後の現場混乱を防ぐPMIの考え方にもつながります。会社売却はゴールではなく、譲渡後に制度と人をどうつなぐかまで含めて成功が決まります。社会保険・労務論点を早めに整えることは、価格交渉のためだけではなく、譲渡後に社員や現場が不安なく動ける状態を作るためでもあります。

譲渡企業様向けの実務チェックリスト

会社売却を見据えた譲渡企業が最低限確認したい項目を、実務用にまとめると次のとおりです。第一に、常用社員・有期社員・外注・一人親方の一覧を作り、実態と契約形態が合っているかを確認すること。第二に、健康保険・厚生年金保険・雇用保険・労災保険の加入状況と取得喪失手続の流れを整理すること。第三に、給与台帳、勤怠記録、残業申請、現場日報の整合をサンプル確認すること。第四に、就業規則、雇用契約書、36協定、労働条件通知書、安全教育記録、健康診断記録などの所在を確認すること。第五に、法定福利費の見積・請求の考え方を説明できるようにすることです。

さらに、元請や発注者からの要求事項、公共工事入札や現場入場で求められる提出資料、協力会社への指導内容、安全衛生の社内ルールも棚卸ししておくと、労務論点を事業継続性の視点で説明しやすくなります。建設業のM&Aでは、人の論点が単独で終わることは少なく、許認可、受注、収益、PMI、採用、教育に連動します。そのため、チェックリストは単なる総務資料ではなく、事業承継の設計図として扱うのが適切です。

買い手企業からよく出る質問に、譲渡企業はどう答えるべきか

建設会社の会社売却における労務DDでは、資料提出だけで終わらず、経営者ヒアリングや現場責任者ヒアリングが行われることがあります。このとき譲渡企業が意識したいのは、質問の背景を理解して答えることです。たとえば「一人親方は何名いますか」という質問は、人数確認だけが目的ではありません。依存度、独立性、代替可能性、譲渡後の継続性、再分類の必要性を把握したいから聞かれています。したがって、単に人数を答えるより、主要な外部戦力の役割と関係性まで含めて説明したほうが、買い手企業の理解は進みます。

また、「社会保険未加入はありますか」という質問に対しても、ゼロか一かで終わらせないことが大切です。過去の未整備があったなら、発生時期、対象範囲、是正済みか、再発防止の仕組みは何かまで示します。譲渡企業が「以前はこうだったが、現在はここまで直している」と時系列で説明できれば、買い手企業は改善マネジメントの力を評価できます。逆に、「昔のことはよく分からない」「担当者に任せていた」という答え方は、論点そのもの以上にマイナスに働きます。

さらに、現場運営とのつながりを踏まえた回答も重要です。たとえば残業管理について聞かれたら、単に勤怠システムの有無を答えるだけでは不十分です。工期が逼迫した現場でどう運用しているか、早出・移動・夜間対応をどう整理しているか、管理職と技能者でルールが違うのか、是正中の項目はどれかまで伝えると、買い手企業は譲渡後の制度統合をイメージしやすくなります。建設業では現場ごとの例外が起きやすいからこそ、「例外をどう管理しているか」を答えられる譲渡企業は強いのです。

データルームに入れておきたい労務資料の並べ方

会社売却で資料提出が始まると、多くの譲渡企業は「何をどの順番で出すべきか」で迷います。労務資料は量が多く、無秩序に提出すると、買い手企業側も理解に時間がかかり、不要な追加質問が増えます。おすすめなのは、最初に概要資料を置き、その後に原資料を並べる方法です。具体的には、まず人員構成表、雇用区分一覧、加入保険一覧、資格者一覧、外注・一人親方一覧、主要論点一覧、是正状況メモを置き、その次に就業規則、契約書、協定書、勤怠資料、給与資料、安全資料を格納します。

この順番にしておくと、買い手企業は概要を掴んだうえで原資料に入れるため、質問の質が上がります。譲渡企業にとっても、論点が拡散しにくくなり、回答の一貫性を保ちやすくなります。建設業の会社売却では、現場ごとの例外や慣行が多いため、原資料だけを出すと誤解されることがあります。だからこそ、一覧表や補足メモを先に置く意義が大きいのです。これは財務DDでも有効な考え方ですが、労務DDでは特に効果があります。

また、譲渡企業が自社で把握している懸念点は、隠すより「論点メモ」として先に整理したほうが、かえって交渉が安定します。たとえば、「この工種では外注依存度が高い」「この現場責任者に案件が集中している」「この時期の勤怠記録は紙管理だった」など、事実を短くまとめておくだけでも、買い手企業は前提を理解しやすくなります。DDは問題探しの場ではなく、譲渡後の引継ぎ可能性を測る場でもあるため、譲渡企業からの前提共有は十分に意味があります。

よくある質問

Q1. 社会保険の未整備が少しでもあると会社売却は難しくなりますか。

直ちに難しくなるとは限りません。重要なのは、未整備の範囲、原因、是正状況、今後の対応を譲渡企業が説明できるかです。軽微な未整備でも説明不能だと不安が大きくなり、逆に是正計画が明確なら前に進むことがあります。会社売却の可否は一点ではなく、全体の事業価値と改善可能性で判断されます。

Q2. 一人親方が多い建設会社は必ず評価が下がりますか。

一律に評価が下がるわけではありません。独立性の高い請負関係として整理され、キーマン依存や契約継続性の説明ができるなら、外部戦力として前向きに評価される場合もあります。ただし、名目だけ外注で実態が雇用に近いケースは、譲渡後の是正負担が意識されやすいため、先に整理しておくことが重要です。

Q3. 法定福利費を見積に十分織り込めていない場合はどうすべきですか。

まず現状の見積・受注構造を整理し、どの工種・取引先・現場で不足が出やすいかを把握することが先です。そのうえで、今後の見積ルールや社内基準を見直し、必要なら買い手候補にも改善方針を説明します。建設会社のM&Aでは、単年利益だけでなく、利益の再現性と適正人件費を前提にした収益構造が見られます。

Q4. 労務DDの前に何から始めるのが最も効率的ですか。

最初の一歩としては、人員一覧と雇用区分一覧の作成が最も効率的です。ここができると、加入状況確認、契約書確認、勤怠確認、安全教育確認などの優先順位が見えやすくなります。建設業では人の配置が現場運営そのものに直結するため、まず誰がどの立場で働いているかを明らかにすることが重要です。

Q5. 会社売却をまだ決めていなくても相談してよいですか。

問題ありません。むしろ、売却を正式決定する前に、譲渡企業としての論点整理を始めたほうが、選択肢を広く持ちやすくなります。今すぐ譲渡するか、数年後に備えるか、第三者承継以外の選択肢も含めて整理することで、無理のない準備計画を作れます。

一般的な情報としての留意点

本記事は、建設会社の会社売却における社会保険・労務DDの一般的な考え方を整理したものであり、法務、税務、労務、社会保険、許認可その他の個別案件に対する助言を行うものではありません。実際の対応は、会社規模、工種、地域、雇用形態、外注構造、公共工事の有無、元請・発注者との契約条件などによって異なります。個別の判断が必要な場合は、社会保険労務士、弁護士、税理士、M&Aアドバイザー等の専門家に確認しながら進めてください。あわせて、免責事項・利用条件もご確認ください。

参考にした公的・公式情報

  • 国土交通省 建設業における社会保険加入対策について
  • 厚生労働省 個人事業者等の安全衛生対策について
  • 厚生労働省 一人親方等の安全衛生対策について

まとめ

建設会社の会社売却で社会保険・労務DDが重視されるのは、単なる制度論ではなく、譲渡後の現場継続性、採算、採用、取引信頼、安全衛生に直結するからです。譲渡企業が先にやるべきことは、未整備をゼロに見せることではなく、現状を把握し、優先順位を決め、改善に着手し、説明できる状態を作ることです。常用社員、一人親方、協力会社、法定福利費、勤怠、給与、安全教育のつながりを整理できれば、買い手企業との対話は格段に進めやすくなります。

会社売却をまだ正式決定していない段階でも、労務論点の見える化は無駄になりません。将来の譲渡に備える準備としても、現在の経営改善としても意味があります。譲渡企業としてどこから手を付けるべきか迷う場合は、企業価値診断や譲渡企業様向け無料相談フォームを通じて、全体像の整理から始めるのが現実的です。建設業特有の人と現場の構造を踏まえて、無理のない順序で準備を進めることが、納得のいくM&Aにつながります。

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この記事を書いた人

株式会社M&A Do 代表取締役 濱田啓揮のアバター 株式会社M&A Do 代表取締役 濱田啓揮

東京都昭島市出身。慶應義塾大学理工学部を卒業後、大手M&A仲介会社にて勤務し、その後株式会社M&A Doを立ち上げ。工事業のM&Aを過去多数支援。

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