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建設会社の会社売却で簿外債務・偶発債務はどう見られる?譲渡企業が整えるべき保証・補修・労務・未払リスクの実務

2026 6/18
コラム
2026年6月18日

建設会社の会社売却を考え始めたとき、多くの譲渡企業様が最初に気にするのは「いくらで売れるか」「誰に引き継げるか」「従業員や取引先に迷惑をかけないか」といった論点です。もちろん、どれも重要です。ただ、実際のM&Aの現場で買い手が最後まで強く見ているのは、数字の見え方そのものよりも、数字の裏に隠れているリスクです。特に建設業では、工事ごとの原価管理、外注先との関係、追加工事や手直し、社会保険や労務管理、下請契約、リースや借入の保証、過去案件の瑕疵対応などが複雑に絡みます。そのため、決算書だけでは読み切れない簿外債務や偶発債務があると、譲渡価格の調整、表明保証の強化、最悪の場合は基本合意後の見送りにまで発展することがあります。

逆にいえば、建設会社の会社売却で不利になりやすい論点は、事前に整理して見える化できれば、必要以上に怖がられずに済むことも少なくありません。買い手が嫌うのは、リスクそのものより「どこに何があるか分からない状態」です。言い換えると、未整理のまま交渉に入ることが最大の値引き要因になりやすいのです。本記事では、建設会社の会社売却で論点になりやすい簿外債務・偶発債務の基本像、買い手がどのように見ているか、譲渡企業様が売却前に何を整えるべきかを、一般的な情報として整理します。なお、法務・税務・会計の個別判断は案件や契約条件、地域、工事内容によって変わるため、最終的には専門家確認が必要です。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法務・税務・会計上の助言を行うものではありません。

工事M&A総合センターでは、譲渡企業様は着手金・中間金・成功報酬0円でご相談いただけます。売却可否をまだ決め切っていない段階でも、建設会社の売却支援ページ、M&Aの進め方、企業価値診断、無料相談フォームを確認しながら、準備の優先順位を整理することができます。

目次

建設会社の会社売却で簿外債務と偶発債務が重く見られる理由

建設業のM&Aで簿外債務や偶発債務が重視されるのは、工事会社の利益が「完成した数字」だけでなく「進行中の案件の質」に左右されるからです。製造業や小売業でも偶発債務は問題になりますが、建設業では現場ごとの採算差、工期遅延、追加原価、協力会社への支払い、労務安全、施工後の補修、許認可体制、技術者配置などが一つの案件の中に同時に存在します。その結果、決算では黒字に見えても、売却後に追加支出が生じる余地が残っていると、買い手は「見かけの利益より実質の収益力は低いのではないか」と考えます。

たとえば、未払残業代の可能性、社会保険の是正負担、外注費の計上漏れ、工事補修費の見込み不足、役員個人保証の整理不足、前受金と進捗の不整合、未収入金の回収不能リスク、瑕疵担保・契約不適合に近いクレーム対応費用、産業廃棄物管理や安全衛生対応の不備などは、買い手から見れば将来キャッシュアウトの候補です。これらは会計上すでに十分に引当計上されていないことも多く、まさに簿外債務・偶発債務として扱われやすい論点です。

買い手は通常、こうした論点をデューデリジェンスで洗い出し、その後の最終契約で表明保証、補償条項、価格調整、エスクロー、役員貸付金整理、退職役員との関係整理などに反映させます。つまり、売却価格だけを見て準備するのでは足りず、どのリスクがどの程度あり、どう管理されているかを説明できる状態が必要です。昨日の相場より、明日の説明可能性の方が売却条件を左右する場面は少なくありません。

そもそも簿外債務・偶発債務とは何か

簿外債務とは、将来支払いが必要になる可能性が高いにもかかわらず、現時点の貸借対照表や損益計算に十分反映されていない負担を指すことが一般的です。偶発債務とは、現時点では確定していないものの、一定の事象が起きると負担として顕在化する可能性があるものを指します。実務ではこの二つを厳密に切り分けず、「将来の資金流出リスク」としてまとめて評価することも多くあります。

建設会社の会社売却で重要なのは、法律用語としての定義を暗記することではありません。買い手が「売却後に想定外の支払いが発生しないか」をどう見るかを理解することです。たとえば、すでに発生しているが経理処理が遅れている下請費用は簿外債務に近く、今後クレームが本格化した場合に支払いが発生する補修費は偶発債務に近いといえます。しかし交渉の場では、どちらも企業価値を下げる要素として扱われ得ます。

そのため譲渡企業様は、「うちはまだ問題化していないから大丈夫」と考えるのではなく、「もし買い手から聞かれたら、発生可能性、金額感、過去の経緯、現在の対策を説明できるか」という観点で準備することが重要です。説明できるリスクは調整可能ですが、説明できないリスクは価格ディスカウントでしか処理できなくなりやすいからです。

建設会社の会社売却で注意したい簿外債務・偶発債務の代表例

1. 工事原価の計上漏れと追加原価

建設業で最も典型的なのが、工事原価の計上漏れや、進行中案件に将来発生する追加原価の見込み不足です。月次で利益が出ているように見えても、現場ごとの実行予算が甘い、外注費の請求が翌月以降にずれ込んでいる、資材価格上昇が未反映、手直し工事が未見積、設計変更対応が未精算といった状態では、実態利益は大きく下がる可能性があります。

買い手は完成工事台帳、案件別原価一覧、工事進行基準の運用、未成工事支出金の内容、工事ごとの粗利推移を見ながら、どこに採算悪化の火種があるかを確認します。過去の利益率が良くても、直近の現場で原価が積み上がる構造になっていれば、会社売却後に損失が顕在化するおそれがあります。この論点は、以前の関連記事である未成工事と進行基準の整理に関する解説とも密接に関係しています。

2. 契約不適合、補修、瑕疵対応の費用

引き渡し後の補修や是正工事の負担も、建設会社の会社売却では頻繁に問題になります。元請案件でも下請案件でも、施工不良そのものだけでなく、現場記録不足、写真不足、検査書類不足、協力会社との責任分担の曖昧さがあると、売却後に追加費用を誰が負担するのかで揉めやすくなります。買い手は「過去にクレームが何件あったか」だけでなく、「再発防止の仕組みがあるか」「金額見込みを把握しているか」を見ます。

建設業では軽微な是正でも現場対応の人件費、再訪問費、材料費、交通費、取引先との調整コストが積み重なるため、簿外で見落とされやすい負担です。譲渡企業様としては、過去数年のクレーム一覧、保証期間中案件、未解決の補修案件、発生原因、見込費用、保険利用の可否を一覧化しておくと、買い手の不安を抑えやすくなります。

3. 社会保険・労務管理に関する是正負担

建設業では、固定残業運用、日報と勤怠の差、協力会社との実態、法定福利費の扱い、一人親方との区分、休日管理など、労務まわりの論点が複雑になりがちです。すでに行政指導を受けていなくても、売却後に未払残業代や社会保険の追加負担が顕在化する可能性があれば、買い手は偶発債務として見ます。この点は社会保険・労務DDの記事でも触れた通り、数字以上に運用実態が重視される領域です。

特に、現場の出退勤記録が曖昧、みなし残業の説明が弱い、休日出勤の代休運用が未整理、現場責任者だけ勤怠実態が把握できていない、といった状態は、後からまとまった是正コストになり得ます。譲渡企業様が売却前に行うべきなのは、完璧な是正を短期間で目指すことではなく、少なくとも論点の所在、対象人数、期間、概算金額、改善状況を説明できるようにすることです。

4. 役員借入、個人経費、資産私用などのオーナー関連論点

中小の建設会社では、オーナー個人と会社の資金の境界が緩くなっていることがあります。役員借入金、役員貸付金、個人名義車両の会社利用、私的経費の混在、親族会社との取引条件、個人口座の立替などは、買い手から見ると「実態収益が読みづらい」「売却後に正常化コストがかかる」論点です。必ずしも違法という話ではなくても、整理前提の負担として価格調整の対象になりやすくなります。

この種の論点は、会社の利益が過大に見える場合だけでなく、逆に過少に見えている場合でも問題になります。なぜなら、買い手は修正後の正常収益を算定したい一方、修正根拠が曖昧だと評価に乗せにくいからです。昨日までの慣行が通用していたとしても、第三者承継では説明可能性が求められます。譲渡企業様としては、オーナー関連取引を一覧化し、売却前に何を会社残し、何を個人切り分けするのか方針を定めておく必要があります。

5. 連帯保証、担保、リース、金融機関対応

建設会社の会社売却で見落としやすいのが、借入金そのものではなく、その周辺にある保証や担保の整理です。代表者個人保証、親族保証、関連会社保証、社有不動産担保、重機リースや車両リースの残債、割賦契約、ファクタリングの有無などは、買い手が資金繰りの安定性を判断する重要な材料です。過去の関連記事で扱った価格算定や財務整理の論点、たとえば会社売却価格の考え方とも直結します。

借入残高が小さいから安心とは限りません。返済条件変更の履歴、短期借入への依存、当座貸越の実態、個人保証解除の難易度、手形や電子記録債務の運用などが重なると、買い手は資金繰り不安をリスクとして見ます。譲渡企業様が準備すべきなのは、金融機関別借入一覧、保証人、担保内容、リース残高、返済条件、コベナンツの有無を一覧化した資料です。資料が揃っていれば、買い手も解除・引継ぎの道筋を描きやすくなります。

6. 下請・協力会社との未精算、口頭運用、外注依存

建設業では、協力会社との関係が利益と品質の両方を支えています。一方で、発注書・請書の整備が不十分、追加工事の口頭合意が多い、請求時期が遅れやすい、支払サイトが現場ごとにばらつくといった状態では、後から未払や紛争が発生しやすくなります。これは単なる事務負担ではなく、簿外債務や偶発債務の温床です。

とくに、特定の協力会社への依存が高い場合、その会社との関係が悪化すると、未請求費用の噴出、追加請求、工事引継ぎの混乱、採算低下が同時に起きる可能性があります。譲渡企業様は、主要協力会社ごとの取引額、契約形態、支払条件、未精算案件、トラブル履歴を整理し、必要であれば売却前に運用の標準化を進めることが有効です。協力会社の引継ぎは元請先・取引先引継ぎの記事とも関連するため、対外説明の設計が重要です。

7. 安全衛生、産廃、環境対応に関する将来負担

建設会社では、労災、安全衛生、産業廃棄物、アスベスト、石綿調査、届出、マニフェスト運用など、案件や業種によって特有の管理論点があります。これらは問題が起きていない平時には見えづらい一方、指摘を受けたときの対応費用や信用毀損は大きくなりがちです。買い手は「重大事故があったか」だけでなく、「管理台帳があるか」「教育記録があるか」「外部委託の範囲が整理されているか」を見ます。

譲渡企業様としては、法令論点を細かく語る前に、自社でどの業種・現場でどの対応が必要なのか、誰が責任者か、記録がどこにあるかを整理するだけでも大きな前進です。売却後に初めて資料不足が判明すると、買い手はリスクを高めに見積もらざるを得ません。問題ゼロを証明するより、管理の所在を示す方が現実的で効果的です。

買い手は簿外債務・偶発債務をどう企業価値に反映するのか

買い手がリスクを見つけたとき、必ずしもその場で「破談」にするわけではありません。多くの場合は、企業価値算定、ネットデット調整、運転資本調整、最終契約上の補償、クロージング前後の是正義務などに分けて反映します。たとえば、すでに発生している未払費用であれば実質的な負債として価格から差し引かれやすく、今後発生する可能性がある補修費や労務是正は、補償条項や特別補償として扱われることがあります。

ここで重要なのは、リスクの「有無」だけでなく「測れるかどうか」です。買い手が金額レンジを把握できるリスクは、価格調整や補償枠の設定で処理しやすくなります。一方で、金額が読めない、対象範囲が不明、資料がないというリスクは、安全側に大きく値引かれやすくなります。つまり、完全にリスクをなくせなくても、定量化して説明できること自体が企業価値の防衛につながります。

この視点は、単に高く売るためだけでなく、売却後のトラブル防止にも重要です。譲渡企業様が交渉初期に都合の悪い論点を隠し、後で発覚すると、価格だけでなく信頼を失います。その結果、買い手は表明保証違反リスクを強く意識し、契約条件が厳しくなりやすくなります。建設会社のM&Aでは、リスクをゼロに見せるより、論点を先に開示して対策方針を示す方が、最終的に良い条件になることが多いのです。

譲渡企業様が売却前に整えるべき7つの実務

1. リスク一覧表を1枚で作る

最優先は、社内に散らばっている不安材料を一覧化することです。工事補修、未払費用、労務論点、保証、係争、回収懸念、行政対応、主要取引先との懸念事項などを、発生可能性、概算金額、対応状況、担当者、関連資料の所在とともに整理します。ここで重要なのは、きれいな資料にすることより、社長と経理責任者と現場責任者で「同じ地図」を持つことです。

2. 案件別採算と未成工事の見通しを補正する

進行中案件の採算悪化が見込まれるなら、先送りせずに現状認識を更新することが必要です。売却前だからこそ利益をよく見せたい気持ちは自然ですが、直近案件の赤字化が後で出るほど信頼を損ねます。案件別の粗利見込み、追加原価、未請求・未発注の有無、完成時期のズレを再点検し、必要であれば補足説明資料を作成します。

3. オーナー関連取引の切り分け方針を決める

役員借入、個人契約、親族会社取引、私用資産の混在は、売却前に「どう正常化するか」の方針を決めるだけでも交渉しやすくなります。全部を即時整理できなくても、クロージング前に解消するのか、価格調整で処理するのか、事業に残すかを整理しておけば、買い手は検討しやすくなります。

4. 金融機関・保証・リースの一覧を揃える

借入契約書、返済予定表、保証人、担保、リース契約、残高、解除条件を一覧化しておくと、買い手と金融機関の対話が進みやすくなります。M&Aでは借入残高そのもの以上に、引継ぎのしやすさが重要です。条件が見えないままでは、買い手は保守的に評価せざるを得ません。

5. 労務・安全・環境の資料所在をまとめる

台帳や記録が複数拠点に分散している建設会社は多くあります。だからこそ、売却前には「何があるか」「どこにあるか」「誰が説明できるか」だけでも明確にしておくべきです。完璧な体制図より、資料所在の整理が先です。これだけでもデューデリジェンス時の印象は大きく変わります。

6. 主要取引先と協力会社の引継ぎ難易度を把握する

元請先や協力会社との関係が社長個人に強く依存している場合、その関係性自体が偶発債務的なリスクになります。引継ぎに失敗すると売上減少や未精算トラブルが生じるためです。主要先ごとに、キーパーソン、契約状況、更新時期、懸念事項、引継ぎ方法を整理し、売却後のコミュニケーション計画を描いておくと有効です。

7. 「説明の順番」を決めておく

リスクを開示するときは、悪い話を並べるだけでは逆効果です。まず事業の強み、次に論点、次に対応状況、最後に買い手にとっての再現性や改善余地、という順で説明すると、印象が大きく変わります。建設会社の会社売却では、現場起点の課題があること自体は珍しくありません。重要なのは、見えていて、管理されていて、引継げることです。

簿外債務・偶発債務を理由に不利な条件を避けるための90日準備

建設会社の会社売却を本格化する前に、90日程度でできる準備は少なくありません。最初の30日では、懸念事項の棚卸し、進行中案件の再点検、借入・保証一覧の作成、主要取引先と協力会社の整理、過去クレーム・補修案件の確認を行います。この段階では、問題を消すことより、全体像を可視化することが目的です。

次の30日では、金額レンジの仮置き、資料不足の補完、月次資料の整備、社内説明の役割分担、必要に応じた専門家相談を進めます。買い手が懸念しそうな論点に対して、どの資料を出し、誰が説明し、どこまで是正済みかを整理しておくと、初回面談以降の進行が安定します。

最後の30日では、売却ストーリーに組み込む準備を行います。つまり、「なぜ今売却なのか」「どのリスクは見えており、どう管理しているか」「引継ぎ後にどのように改善しやすいか」を一つの説明としてまとめます。建設会社のM&Aでは、数字の魅力だけで進む案件より、弱みも含めて説明が整理された案件の方が、結果的に条件が安定しやすい傾向があります。

譲渡企業様に向いている相談の進め方

簿外債務や偶発債務の論点は、社内だけで整理しようとすると、どうしても「この話は出したくない」「まだ確定していないから後でいい」という判断になりがちです。しかし、会社売却では後回しにした論点ほど、買い手に見つかったときのダメージが大きくなります。だからこそ、建設業に特有の論点を理解している相談先と一緒に、初期段階から棚卸しを進めることが重要です。

工事M&A総合センターでは、譲渡企業様の準備段階から、どの論点が企業価値に効くのか、どの論点は説明で吸収しやすいのか、どこを先に整えるべきかを整理するお手伝いが可能です。繰り返しになりますが、譲渡企業様は着手金・中間金・成功報酬0円です。まだ本格的に売却を決めていない段階でも、リスクの見える化という観点から相談を始める意味は十分にあります。

買い手が建設会社の会社売却で実際に見ている確認ポイント

譲渡企業様の立場では、「何をどこまで準備すれば十分なのか」が分かりにくいことがあります。そこで参考になるのが、買い手が実際の初期検討やデューデリジェンスで確認しやすいポイントです。完全に同じ手順になるとは限りませんが、以下の視点を意識しておくと、説明の漏れを減らしやすくなります。

第一に見られるのは、利益の再現性です。直近3期から5期の売上総利益率が安定しているか、急に利益が改善している案件に一過性がないか、進行中案件で粗利悪化が潜んでいないか、工事台帳と月次の数字に大きなズレがないか、といった点です。簿外債務・偶発債務の話に見えなくても、将来原価の積み残しがあるなら実質的にはリスクとして扱われます。

第二に見られるのは、未解決論点の管理状態です。未払費用、クレーム、補修、係争懸念、労務是正、行政対応、主要取引先との懸念事項などが、社長の頭の中だけで管理されていないかが問われます。買い手は「問題があるか」より「問題を管理する仕組みがあるか」を見ています。社内メモでもExcelでも構わないので、一覧化されているだけで安心感は大きく変わります。

第三に見られるのは、売却後の引継ぎ可能性です。元請先、協力会社、現場責任者、営業担当、経理担当、許認可や技術者の実務が、特定個人に閉じていないかが確認されます。もし属人性が強い場合でも、誰が何を引き継ぐかの設計があれば、偶発債務として過大評価されにくくなります。見えない属人性はリスクですが、見えている属人性は引継ぎ計画で緩和できます。

社内で今すぐ始められる簿外債務・偶発債務の棚卸し方法

大掛かりなプロジェクトを始める前に、社内で今すぐできる棚卸し方法があります。まず、社長、経理責任者、工事責任者、できれば総務や労務担当も含めて一時間程度の打合せを設け、「気になる論点を全て出す」ことから始めます。この段階では正確性より網羅性が大切です。出てきた論点を、財務、工事、労務、法務、取引先、金融機関、その他に分けるだけでも全体像が見えやすくなります。

次に、それぞれの論点について、発生済みか未発生か、金額が見えるか見えないか、誰が説明できるか、資料があるかないかを記載します。ここまでできると、どの論点が簿外債務として価格調整されやすいか、どの論点が偶発債務として契約条件に反映されやすいか、どの論点が単なる懸念にとどまるかの切り分けがしやすくなります。

さらに、売却スケジュールを意識するなら、「売却前に是正する」「説明資料を作る」「契約条件で処理する」の三分類も有効です。すべてを売却前に片付ける必要はありません。むしろ、短期間で無理に是正すると現場が混乱し、別の問題が生じることもあります。重要なのは、何を今やるべきか、何を説明で吸収するか、何を買い手との交渉事項として残すかを整理することです。

簿外債務・偶発債務の整理が建設会社の会社売却後にも効く理由

簿外債務や偶発債務の整理は、単に売却価格のためだけに行うものではありません。売却後に元経営者と買い手の関係を悪化させないためにも有効です。たとえば、売却後半年から一年の間に、未払費用、補修案件、労務論点、協力会社からの追加請求が次々に出てくると、譲渡企業様としては「そんなはずではなかった」と感じても、買い手から見れば「最初の説明と違う」と映ります。

建設業のM&Aでは、クロージング後に現場対応が続くことも珍しくありません。そのため、売却前に論点整理ができている会社ほど、引継ぎ計画、役割分担、補償範囲の線引きがしやすくなります。結果として、譲渡企業様にとっても、売却後の心理的負担や紛争リスクを減らしやすくなります。価格だけでなく、売却後の安心を守る準備としても、簿外債務・偶発債務の見える化には意味があります。

よくある質問

Q1. 簿外債務が少しでもあると建設会社の会社売却は難しくなりますか。

直ちに難しくなるとは限りません。重要なのは、何があり、どれくらいの金額感で、どう管理されているかを説明できるかです。建設会社のM&Aでは、一定の論点が存在すること自体は珍しくありません。むしろ、問題が見えているのに整理していない状態の方が、買い手は強く警戒します。

Q2. 偶発債務は発生していないなら開示しなくてもよいですか。

一般には、その判断はおすすめできません。将来発生の可能性が合理的に見込まれる論点を隠したまま進めると、後で信頼問題になりやすいためです。どこまで開示するかは個別事情によりますが、少なくとも社内整理と専門家相談を経たうえで、開示方針を決めることが重要です。

Q3. 買い手が価格を大きく下げてきたらどう対応すべきですか。

まずは値下げ理由を分解することです。簿外債務そのものを見ているのか、不確実性の大きさを見ているのかで対応が変わります。資料追加や是正計画で吸収できる論点もあれば、価格調整で処理した方が早い論点もあります。一律に拒否するより、理由ごとに対処した方が結果的に有利になりやすいです。

Q4. 社長個人保証が残っていると売却できませんか。

売却自体は可能な場合があります。ただし、個人保証の解除見通しは買い手にとって非常に重要な論点です。金融機関との関係、会社の財務内容、買い手の信用力によって解き方が変わるため、早い段階で整理することをおすすめします。

Q5. まだ会社売却を決めていない段階で相談してもよいですか。

問題ありません。むしろ、まだ決めていない段階の方が、簿外債務や偶発債務の論点を落ち着いて整理しやすいことが多いです。建設会社の会社売却は、準備の質で条件差が出やすい領域です。早めに全体像を把握しておくことで、後から慌てずに進めやすくなります。

一般的な情報としての補足

本記事は、建設会社の会社売却と簿外債務・偶発債務に関する一般的な情報をまとめたものです。実際の案件では、工事内容、取引条件、地域、許認可、財務状況、契約内容、労務運用、税務処理、保険加入状況などによって対応が異なります。したがって、本記事の内容は一般論であり、法務・税務・会計上の助言を行うものではありません。具体的な判断が必要な場合は、弁護士、公認会計士、税理士、社会保険労務士その他の専門家へご相談ください。

まとめ

建設会社の会社売却で簿外債務や偶発債務が問題になるのは、単に悪い材料があるからではありません。買い手が、売却後にどの程度の不確実性を背負うかを見ているからです。だからこそ譲渡企業様に必要なのは、論点を隠すことではなく、早い段階で見える化し、説明可能な形に整えることです。工事原価、補修、労務、保証、協力会社、環境対応、オーナー関連取引といった建設業特有の論点を一つずつ整理できれば、必要以上の値引きや条件悪化を避けやすくなります。

会社売却をまだ決め切っていない場合でも、準備を始める意味は十分にあります。建設業のM&Aで何から確認すべきか迷う場合は、企業価値診断や無料相談を活用しながら、まずは自社の論点整理から進めてみてください。譲渡企業様は着手金・中間金・成功報酬0円で相談できるため、初期段階の壁を下げやすいはずです。

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この記事を書いた人

株式会社M&A Do 代表取締役 濱田啓揮のアバター 株式会社M&A Do 代表取締役 濱田啓揮

東京都昭島市出身。慶應義塾大学理工学部を卒業後、大手M&A仲介会社にて勤務し、その後株式会社M&A Doを立ち上げ。工事業のM&Aを過去多数支援。

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