工事会社のM&Aは、相手を探す前に「何を引き継ぎ、どの条件が整えば実行できるか」を整理すると、必要な相談と資料が明確になります。本稿は会社売却・事業承継を検討する方向けの準備例です。特定案件の実績や、一律の法定提出書類を示すものではありません。
- 譲渡する範囲と実行前に必要な確認
- 工事・人員・契約の資料をそろえる順序
- 条件交渉から実行後の引継ぎまでの担当と期限
工事会社・専門工事会社の譲渡を検討中の方へ
工事M&A総合センターでは、譲渡企業様から着手金・中間金・成功報酬をいただかず、匿名相談の段階から状況整理を支援しています。
当センターへの譲渡側報酬0円と、外部専門家・登記・許認可等の費用や税金は別です。必要な費用と負担者は個別に確認します。
1. 譲渡の目的と残したい条件を書き分ける
最初に、後継者不在、経営負担の軽減、採用・資金面の支援など、検討する理由を一つずつ記載します。親族・役員・従業員への承継と外部へのM&Aを比較している段階でも構いません。売却を急ぐ期限がある場合は、その理由も相談先に伝えます。
希望条件は「必須」「相談可能」「未決定」に分けます。従業員の処遇、屋号、営業所、主要工種、社長の退任時期、個人保証の扱いを、価格と別の欄に置く方法です。たとえば社長がすぐ退任したい場合、見積承認、元請対応、職長への指示を誰が引き継ぐのかが先に検討すべき課題になります。
初期メモには工種、公共・民間の構成、元請・下請の構成、従業員数、許可、売上・利益の概況、受注残、希望時期をまとめます。分からない欄は空欄にし、推計値には集計日と推計方法を添えます。
2. 承継方法と許可・契約の手続を照合する
株式譲渡と事業譲渡では、会社・資産・契約の引継ぎ方が異なります。建設業許可の事業承継には事前認可の制度がありますが、許可に係る建設業全部の譲渡などの対象・要件があります。工種の一部を譲渡したい場合も含め、対象範囲を決める段階で許可行政庁に確認します。
| 確認する区分 | 実行日を決める前の確認 |
|---|---|
| 株式譲渡 | 法人格は変わりませんが、役員・営業所技術者等の変更、許可要件の充足、契約の支配権変更条項等を確認します。 |
| 事業譲渡 | 譲渡対象、許可区分と事前認可の条件、契約の移転、労働契約の承継に必要な説明・承諾等を個別に確認します。 |
| 公共工事 | 経審、発注機関ごとの入札参加資格・変更手続、施工中の契約を分けます。許可の手続だけで受注が継続するとは限りません。 |
許可、経審、入札参加資格は別の確認項目です。経審は2026年7月1日施行の改正もあるため、通知書の審査基準日・工種・適用基準を確認します。標準請負約款にも権利義務の移転に関する承諾条項があり、実際の契約と特約を読んで発注者への確認時期を決めます。
3. 工事台帳と人員表から、引継ぎの課題を見つける
資料は決算書だけで完結させず、同じ基準日の工事台帳・受注残一覧と照合します。契約済みの受注残、内示・見込案件、未合意の追加変更は分けて表示します。利益が未確定の工事は、現状の見積りと不確定な費用を併記します。
| 資料のまとまり | 確認する内容 |
|---|---|
| 工事別の数字 | 契約額、出来高、投入原価、残原価、入金・支払予定。未成工事支出金、未成工事受入金、完工未収入金との対応を確認します。 |
| 人員・協力会社 | 営業所技術者等、現場の主任・監理技術者、施工管理者、職長の役割と配置。外注先は工種、発注量、契約、支払条件を整理します。 |
| 品質・労務・設備 | 補修・事故・クレームの対応状況、保険、労働時間、設備の所有・リース、契約終了時の負担を確認します。 |
不足資料を一度に完成させる必要はありません。「ある資料」「担当者に聞く事項」「外部へ照会する事項」に分け、候補先への説明前に必要なものから整えます。職長や協力会社の継続は希望と確認済みの回答を区別します。
4. 候補先との面談・調査で条件を具体化する
初期打診では社名を伏せた概要を用い、候補先、開示範囲、秘密保持契約を確認してから詳細へ進みます。工種と施工地域の組合せだけでも特定される場合があるため、匿名化の程度は相手ごとに検討します。
面談では、買収後の営業所、人員配置、見積・原価管理、協力会社への発注方針を質問します。デューデリジェンスでは質問を工事・契約・人員別の一覧にし、回答者、根拠資料、未回答の理由を残します。赤字工事や補修責任も、金額だけでなく原因と対応状況を共有します。
課題が出たら、実行前に解消するのか、価格・契約条件へ反映するのか、実行後の引継ぎ事項にするのかを分けます。相手の希望額だけで判断せず、資金調達、保証解除、社長の残留期間などの実行条件を比較します。
5. 契約締結と実行の間に、確認漏れを残さない
最終契約を結ぶ日と、株式・事業の移転や代金決済を行う日は同日とは限りません。契約の前提条件と、実行までに取得すべき認可・承諾、解除・変更する保証、引き渡す書類を一覧にします。担当者、回答期限、未完了の場合の対応まで合意しておきます。
個人保証はM&Aにより自動解除されるものではありません。金融機関との調整状況を確認し、「買い手が後で対応する」という説明だけで完了扱いにしないことが大切です。事業譲渡による雇用の承継では、対象労働者への説明・協議や承諾などを個別に確認します。
従業員、元請、発注者、協力会社への説明は、契約上の承諾期限や現場への影響を踏まえて決めます。全員への説明を実行後に統一するのではなく、誰が何を承認・判断する必要があるかから逆算します。
6. 実行後の引継ぎを、現場ごとの担当表にする
初日には資金決裁、見積承認、発注、給与・外注支払、事故時の連絡先を確認します。施工中の現場は進捗、次の検査、資材手配、追加変更の交渉、顧客窓口を担当者へ引き継ぎます。社長の口頭説明だけに依存せず、未解決事項と次回確認日を記録します。
30日・60日・100日などの区切りは点検の目安です。原価の増減、入金遅延、技術者配置、退職意向、補修対応を追い、計画との差を相談します。100日で全課題が解消するという保証ではなく、責任者と見直しの機会を決めるために使います。
価格の資料は工事会社の企業価値評価、開示の段取りは秘密保持と候補先選びでも整理しています。
よくある質問
まだ売却を決めていなくても相談できますか。
可能です。親族・役員等への承継と比較している段階から、希望条件と不足資料を整理できます。
従業員や取引先に知られずに進められますか。
初期段階は匿名概要で検討できますが、特定や情報漏えいの可能性をなくせるとは限りません。必要な説明・承諾の時期も踏まえ、相手と開示範囲を決めます。
赤字工事や補修履歴があると譲渡できませんか。
一律には決まりません。原因、見込負担、対応状況、保険等を整理し、引継ぎ条件を検討します。
譲渡企業側の費用は本当に0円ですか。
当センターへ支払う譲渡側の着手金・中間金・成功報酬は0円です。登記、許認可、税務・法務等の外部専門家費用や税金は別で、発生の有無と負担者を確認します。
工事会社・専門工事会社の譲渡を検討中の方へ
制度の参照資料(確認日:2026年9月12日)
制度の説明は以下の公表資料を参照しています。資料の整理方法や表は一般的な準備例です。個別の適用条件・必要手続は許可行政庁、発注機関、契約先、専門家に確認してください。

